生成AIで成果を出す鍵は、ツールの操作よりも「何を解くか」を見極める考え方にあります。その地図になるのが「ダブルダイヤモンド」です。
「生成AIに質問すれば、すぐ答えが返ってくる」——この手軽さが、かえって問題解決を浅くしてしまうことがあります。出てきた最初の答えに飛びついた結果、そもそも解くべき問題がずれていた、というケースは少なくありません。
この記事では、生成AIを「答えを出す機械」ではなく「思考を広げ・絞り込む相棒」として使う方法を、デザイン思考の代表的なフレームワーク「ダブルダイヤモンド」に沿って整理します。読み終えるころには、目の前の課題に対してAIをどの順番でどう使えばいいかが見えてくるはずです。
この記事でわかること
- 「ダブルダイヤモンド」とは何か、なぜ生成AIと相性がいいのか
- 問題解決にある「2つの別の仕事」(問題空間と解決空間)の違い
- 探索・定義・展開・実現の4フェーズごとのAIの使い方とプロンプトの型
- フレームを飛ばしたときに起きる3つの失敗パターンと回避策
- 「営業資料作成」を例にした、4フェーズの当てはめ方
そもそも「ダブルダイヤモンド」とは何か
ダブルダイヤモンドとは、問題解決を「発散(広げる)」と「収束(絞る)」の繰り返しで進める考え方です。英国デザイン協議会が提唱した枠組みで、ひし形(ダイヤモンド)が2つ並んだ図で表されます。
図1:問題と解決策、それぞれで発散と収束を行う
ポイントは、ダイヤモンドが2つあること。1つ目(Discover・Define)は「正しい問題を見つける」ため、2つ目(Develop・Deliver)は「正しい解決策をつくる」ためにあります。多くの人が失敗するのは、問題を十分に見極めないまま、いきなり解決策づくり(2つ目のダイヤ)に飛び込んでしまうからです。いきなり解決策を考えず、まず「何を解くべきか」を明確にする——これがこの図のいちばんのメッセージです。
では、なぜ「問題を見つける」と「解決策をつくる」を分けて考える必要があるのでしょうか。
問題解決には「2つの別の仕事」がある
結論から言うと、問題解決は「何を解くべきか」を考える仕事と「どう解くべきか」を考える仕事の2つに分かれるからです。この2つは性質がまったく違います。
図2:問題解決には、2つの別の仕事がある
| 問題空間(Problem Space) | 解決空間(Solution Space) | |
|---|---|---|
| 問い | 何を解くべきか | どう解くべきか |
| ゴール | 問題を定義する | 解決策を検証する |
| やること | 現状を知る/利用者を知る/原因を探る/問題を絞る | 案を出す/比較する/試す/実装する |
どちらも欠かせませんが、順番と行き来が成果を生みます。気をつけたいのは、問題を間違えると、どれだけ優秀な解決策をつくっても成果は出ないという点です。だからこそ、最初に問題空間でしっかり立ち止まる必要があります。
この「広げて絞る」を支えるのが、発散と収束という2つの動きです。
発散は「広げる」、収束は「決める」
ダブルダイヤモンドの各フェーズは、発散(広げる)と収束(絞る)のどちらかの動きでできています。この2つを意識して切り替えることが、思考の質を左右します。
図3:発散は広げる、収束は決める
| 発散(広げる) | 収束(決める) |
|---|---|
| 情報を集める | 情報を整理する |
| 視点を増やす | 優先順位をつける |
| 仮説を増やす | 仮説を選ぶ |
| 案を出す | 案を評価する |
注意したいのは、発散だけでは決まらず、収束だけでは思い込みになるということです。広げてばかりでは結論が出ず、最初から絞り込んでばかりでは視野が狭いまま進んでしまいます。両方を行き来することが大切です。
この「広げる」と「絞る」の両方を、生成AIは高速に手伝えます。次でその相性を見ていきます。
なぜ生成AIとダブルダイヤモンドは相性がいいのか
結論から言うと、生成AIは「発散」を強化し、人間は「収束」の基準を決めるという役割分担が、きれいに噛み合うからです。
発散フェーズでは、AIは数十個の視点やアイデアを一瞬で出せます。ひとりでは思いつかない切り口や、業界外の発想も引き出せます。一方の収束では、大量の情報を要約・分類し、整理を助けてくれます。ただし「何を選ぶか」を決めるのは人間の仕事です。
図6:ダブルダイヤモンド×生成AI(人間とAIの役割分担)
| フェーズ | 人間が担うこと | AIが担うこと |
|---|---|---|
| Discover(探索) | 現場を見る | 要約・分類する |
| Define(定義) | 問題を決める | 論点や仮説を整理する |
| Develop(展開) | 評価軸を示す | 複数案を出す |
| Deliver(実現) | 採否を判断する | 試作品や改善案を作る |
覚えておきたいのは、AIに答えを出させる前に「何を答えさせるべきか」を人間が定めるということです。この前提を踏まえたうえで、各フェーズの具体的な使い方を見ていきましょう。
ダブルダイヤモンドの4つのフェーズ
具体的な使い方に入る前に、4フェーズの全体像を押さえておきます。各フェーズには「答えるべき問い」があり、それがそのフェーズのゴールになります。
図4:ダブルダイヤモンドの4つのフェーズ
| フェーズ | 動き | このフェーズの問い |
|---|---|---|
| ① 探索(Discover) | 発散 | 実際に何が起きているか |
| ② 定義(Define) | 収束 | 本当に解くべき問題は何か |
| ③ 展開(Develop) | 発散 | 他にどんな解決方法があるか |
| ④ 実現(Deliver) | 収束 | 実際に使える解決策はどれか |
それでは、1つ目のダイヤモンド(探索→定義)から順に、AIの使い方を見ていきます。
【フェーズ①】探索:AIで視野を広げる(発散)
最初のフェーズで答えるべき問いは「実際に何が起きているか」です。結論を急がず、まず現状を広く理解することを目指します。ここでAIに「答え」を求めてはいけません。求めるのは「観点」です。
このフェーズでのAIの使い方は、たとえば次のようなものです。
- 課題に関係する論点・切り口を洗い出してもらう
- 当事者(顧客・現場・経営)それぞれの立場から見える景色を書き出してもらう
- 自分が見落としていそうな前提や思い込みを指摘してもらう
プロンプトの型(探索フェーズ)
私は今「(課題)」について考えています。
まだ結論は出さなくて構いません。
この課題を多角的に捉えるために、
考慮すべき論点・関係者の視点・見落としがちな前提を、
できるだけ幅広く20個リストアップしてください。
ポイントは「結論は出さなくていい」と明示することです。こう伝えるだけで、AIは早すぎる解決策ではなく、視野を広げる材料を返してくれます。
材料が十分に広がったら、次は「で、結局なにが問題なのか」を絞り込む段階に移ります。
【フェーズ②】定義:AIで問題を1つに絞る(収束)
2つ目のフェーズで答えるべき問いは「本当に解くべき問題は何か」です。ダブルダイヤモンドで最も重要であり、最もつまずきやすい部分でもあります。
ここでのAIの役割は、収束を手伝うことです。探索フェーズで集めた論点をAIに渡し、整理・グルーピングしてもらいます。
- 出てきた論点を似たもの同士でグループ分けしてもらう
- 「これは原因か、症状か」を仕分けしてもらう
- 問題を「どうすれば〜できるか」の問いに言い換えてもらう
プロンプトの型(定義フェーズ)
以下は、ある課題について洗い出した論点です。
(フェーズ①で出した論点を貼り付け)
これらを似たテーマでグループに整理し、
それぞれが「根本原因」「表面的な症状」のどちらに近いか分類してください。
そのうえで、最も解く価値が高いと思われる本質的な問題を、
「どうすれば〜できるか?」という問いの形で3つに絞って提案してください。
ここでAIが出した問いは、あくまでたたき台です。最終的に「どの問題を解くか」を決めるのは人間の仕事だと忘れないでください。この一線を守ることが、後で述べる失敗を避ける鍵になります。
解くべき問題が定まったら、いよいよ2つ目のダイヤモンド——解決策づくりに入ります。
【フェーズ③】展開:AIで解決アイデアを量産する(発散)
3つ目のフェーズで答えるべき問いは「他にどんな解決方法があるか」です。定義した問題に対して、解決アイデアを「数」で勝負します。質の高い1案は、たくさんの案の中から生まれます。
ここはAIが最も力を発揮する場面のひとつです。ひとりのブレストでは10個出すのも大変ですが、AIなら多様な切り口で一気に提案できます。
- 解決アイデアを制約条件つきで大量に出してもらう(例:予算ゼロで/1週間で)
- 正反対のアプローチを並べてもらう(増やす案/減らす案など)
- 「他業界ならどう解決するか」というアナロジー発想を求める
プロンプトの型(展開フェーズ)
解くべき問題は「(フェーズ②で定義した問い)」です。
これに対する解決アイデアを、次の3つの切り口で出してください。
① 今すぐ・コストをかけずにできる案
② 半年かけて仕組みから変える案
③ まったく別の業界のやり方を応用した案
それぞれ5個ずつ、合計15個お願いします。
このとき、出てきた案を一つずつ吟味したくなりますが、発散の最中は手を止めないのがコツです。評価は次のフェーズでまとめて行います。
アイデアが出そろったら、最後は「どれを本当にやるか」を決め、形にする段階です。
【フェーズ④】実現:AIで最良案に仕上げる(収束)
最後のフェーズで答えるべき問いは「実際に使える解決策はどれか」です。数あるアイデアから実行する案を選び、試して磨き上げます。ここで再びAIに収束を手伝ってもらいます。
- アイデアを評価軸(効果・実現性・コストなど)で採点してもらう
- 選んだ案のリスクや反対意見を先回りで洗い出してもらう
- 実行計画や説明資料のたたき台を作ってもらう
プロンプトの型(実現フェーズ)
以下の解決アイデア候補を、
「期待できる効果」「実現のしやすさ」「コストの低さ」の3軸で
それぞれ5点満点で採点し、表にまとめてください。
(アイデア候補を貼り付け)
そのうえで、上位2案について想定されるリスクと、
それを防ぐ対策も添えてください。
採点はあくまで判断の補助です。最終的な意思決定は、現場の事情を知る人間が下します。AIの点数を鵜呑みにせず、「なぜその点数なのか」を問い直す姿勢が、質の高い結論につながります。
ここまでがダブルダイヤモンドの4フェーズです。ただし、このフレームを飛ばすと、決まって同じ失敗が起こります。
ダブルダイヤモンドを飛ばすと何が起きるか
便利だからこそ、フレームを飛ばして近道しようとすると、次の3つの失敗に陥りがちです。
図5:ダブルダイヤモンドを飛ばすと何が起きるか
| 失敗パターン | 起きること | なぜ起きるか | 回避策 |
|---|---|---|---|
| ① 解決策から始める | ツール先行になる | 「AIを入れよう」が先で、何に使うかは後回し | まず探索・定義で「何を解くか」を決める |
| ② 発散だけで終わる | 会議だけ増える | 情報やアイデアを広げるが、絞る基準がない | 収束フェーズで評価軸を決めて選ぶ |
| ③ 収束基準がない | 判断が属人的になる | 声の大きい人が決めてしまう | 効果・実現性などの軸を先に共有する |
正解は、探索→定義→展開→検証・実装の順に進めることです。ユーザーと課題を広く深く理解し、本質的な課題を定義し、解決の方向性を多様に考えて絞り込み、価値を検証しながら実装と改善を続ける——この順番を守れば、AIは強力な相棒になります。
加えて、AIならではの注意点として、もっともらしい嘘(ハルシネーション)があります。数値や固有名詞は、必ず一次情報で裏取りしてください。
では、この進め方を具体的な業務に当てはめると、どう見えるのでしょうか。
例:営業資料作成をダブルダイヤモンドで考える
イメージをつかむために、「営業資料の作成に時間がかかる」という身近な課題を例に、4フェーズをたどってみます。
図7:営業資料作成をダブルダイヤモンドで考える
- ① 探索(現状を把握する):どこに時間がかかるか/誰が何回修正しているか/過去資料はどこにあるか/顧客ごとの差分は何か、を洗い出します
- ② 定義(本当の課題を絞る):調べてみると「資料作成そのものが遅い」のではなく、「顧客別の過去資料を探すのに時間がかかっている」とわかります。ボトルネックは作成ではなく探索でした
- ③ 展開(解決策を複数考える):A. AIで文章生成/B. 過去資料の検索/C. 類似事例の抽出/D. テンプレート化、と複数案を並べます
- ④ 実現(試して効果を確かめる):小規模で試し、作成時間を測り、品質を評価して、うまくいけば業務フローへ導入します
この例のポイントは、いきなり「AIで資料を作る」に飛びつかず、まず「どこが詰まっているか」を定義したことです。もし定義を飛ばしていたら、文章生成AIを入れても「探すのに時間がかかる」本当の問題は解決しないままでした。
自分の業務でも、まずは身近な課題ひとつで前半のダイヤ(探索→定義)から試してみてください。
よくある質問(FAQ)
KINDLERのAI研修で「考え方」から身につける
ここまで見てきたとおり、生成AIで成果を出す鍵は、ツールの操作よりも「何を解くか」を見極める考え方にあります。KINDLERが掲げる「AIの本質は構造化」という思想も、まさにこの点を指しています。プロンプトのテクニックを覚える前に、問題を発散・収束で整理する型を身につけることが、遠回りに見えて最短ルートです。
KINDLERの法人向けAI研修では、こうしたダブルダイヤモンドのような思考のフレームワークを、自社の実際の業務課題に当てはめながら手を動かして学んでいきます。ツールの使い方だけを教えて終わりにせず、受講後も現場で使い続けられるよう、伴走型で「教えすぎない」スタイルを大切にしています。
「自社のどの業務から生成AIを使えばいいか分からない」「研修を入れても結局定着しない」——そうした課題をお持ちでしたら、KINDLERのAI研修・AI顧問サービスがお役に立てます。詳しくはコーポレートサイトをご覧ください。
まとめ
生成AIは「答えを出す機械」ではなく、思考を広げ・絞る相棒として使うと真価を発揮します。問題解決には「何を解くか(問題空間)」と「どう解くか(解決空間)」の2つの仕事があり、問題を間違えると解決策が優秀でも成果は出ません。
ダブルダイヤモンドの4フェーズ(探索・定義・展開・実現)が、AIの使い分けの地図になります。AIは発散を強化し、人間は収束の基準を決める。「何を答えさせるべきか」を定めるのが人間の役割です。
まずは身近な課題ひとつで、前半のダイヤ(探索→定義)から試してみてください。問題解決の進め方が見えたら、次は議事録・資料作成・プロンプトのコツといった個別の実務テーマへ進み、AI活用の精度を高めていきましょう。